本当に一年は早いものだな。岩水静は腕を組みつつそんなことを考える。目の前にはいつもの様に石峰優璃と山吹薫が向かい合っている。
それでどの様な原因で大動脈解離に至るのかは分かりましたが、その治療法ですね。
ふむ。大動脈解離については保存療法も取られる事もあるが多くは手術療法やカテーテル治療が選択される事も多い。
そうだな。特に上行大動脈に乖離がみられるスタンフォードA型に関しては急死に至る心タンポテーナーゼや急性心不全を生じやすく、また場所によっては脳還流量の低下など予後に大きく関係する合併症を引き起こしやすい。よって緊急手術が必要となるな。
そして一年の終わりにはどこか切なくなるものだと岩水は思う。それは少なくとも変化が少しずつ目に見えてくるからだろとも同時に思う。
そうだな。そしてその手術について何が選択されるのはその時の状況や主治医の判断による。一つは人工血管置換術でその名の通り血管を人工のものに変えてしまうという事だな。胸を開く開胸術となり人工心肺を用いて解離した血管を取り除き、人工の血管を縫い付けるという事だな。
損傷の程度でその人工血管に置換する部位は変わるな。高度の大動脈閉鎖不全などの疾患も合併しているならば弁も一緒に取り替えるベントール手術となり、逆に弁が正常であるならば弁を温存するヤクー手術やディビット手術が選択される。
ふむふむ。しかしどちらにしても大きな手術ですね。それだけ重大な疾患という事は分かりますね。もし解離の進展が上行大動脈ではないスタンフォードB型では臓器障害が出ない限りは保存療法が選択されますが、それでもしっかりと日々のモニタリングが必要ですね。
しかしこいつも頑張ったな。と岩水は山吹を見る。どんな仕事でも一年目は辛い。だけども確かに成長するものなのだ。
そして近年では特にカテーテル治療の大変進歩しているな。低侵襲でありその後のリハビリも円滑に進みやすい。こう小さな傷からカテーテルを通して障害された部分でステントを作り上げるという事だな。人工心肺を使わない分やはり体の負担も少ないものだと思うよ。
そしてそれらを組み合わせたハイブリッド治療もまた行われるな。人工血管を使用し、主要な血管をバイパスを作り、ステントグラフとも併用する。こうやって医師の努力により日々治療もまた進歩しているのだな。
なるほどですね。やはり侵襲が少ないとその後の治療も円滑に進みやすいという事には変わりませんが、そういった点でも僕達もしっかり学ぶ必要がありますね。
そうだな。と石峰は山吹へと笑みを向ける。その表情は逆行を受けつつ酷く儚いものに岩水には見えた。
山吹薫の覚書82
・上行大動脈に解離が進展するスタンフォードA型は緊急手術が選択される。
・手術、カテーテル治療と手技もまた日々進化している。常に学ぶ。
・どうした?岩水さんがなんだか少しいつもと違う・・・
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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